小澤征爾さんの誠心誠意

2006年4月30日


誠心誠意、人に何かを伝えることがこんなに画面を通してドクドクと流れてくるなんて・・・。今日(2006年4月30日)に放送されたNHKBSでの『小澤征爾教育ドキュメント 中国と結ぶ「終生の絆」』は、昨年行われた「音楽塾」の中国でのリハーサルから本番までのドキュメンタリーでしたが、見ているこちら側も、疲労するほどにエネルギーが溢れていました。ただ、それは感動もしましたが、今の世の中の物質的に恵まれた中にある空虚に気づかずに、日々を送っている若者達を見て、10年後、20年後の世の中がどんな風になっているのかを想像することの恐ろしさでもありました。
一人っ子政策で、欲しなくても何もかもが与えられて育ってきた中国の若者達。音大に進み、ソロとしての技術は磨かれたものの、オーケストラで合奏する、人と合わせて弾くということが、ひどく苦手なのですが、リハーサル中にも真剣味のない若者達に対して、小澤さんは声をからすほどの練習の後、ひどく落胆するのですが、「私の個人的な人生の重みを分かって欲しい」と、中国人の若い音大生に語りかけるのです。ベートーヴェンを知らない人にベートーヴェンを教えるのは、赤い色を知らない人に、赤ってこんな色なんだよと教えるくらい途方もないことのようにも見えました。けれど、「朱に交われば赤くなる」という諺がありますが、実にたった1人の朱が、若い学生達を赤く染めていくようなリハーサル風景は、小澤征爾さんの「誠心誠意」が溢れて突き刺してくるような迫力でした。途中から加わったサイトウキネンなどでもおなじみの演奏家達も、「合わせること、聴き合うこと」の大切さを必死に伝えていましたが、昨年のオペラ塾の裏側がこんなに大変だったなんて・・・。でもあのオペラは例年に比べてちょっと「?」な演奏だったので、理由はなんとなく分かりましたが、淋しい気持ちがします。
中国に限らず、日本だって、たくさんの食べ物、便利な機械、溢れる情報・・・等の中で、今さらハングリーにならなくても充分暮らしていけるのは同じこと。もはや「ハングリー精神」なんて言葉も、なんですか?なんて聞かれてしまいそうですから、誠心誠意とか一生懸命になることが減っていってしまうのかもしれません。そう考えるととても恐いなぁと思います。


(この中国でのオペラ塾から帰国した時の空港で、テレビカメラに映し出された疲れ切ったような小澤さんの表情を見ると、1月からの入院、長期休養は当然かと思えます。年内のウィーン国立歌劇場での音楽監督としての仕事はすべてキャンセルとのこと。関連記事 CLASSIC JAPAN ぶらあぼ

*オペラ塾の日本での演目:『セヴィリアの理髪師』